光情報受容には結像(透光体・光学系),受光部と情報処理(網膜),伝達と認識(大脳)などのすべてが関係する.
臨床,特に疾患の立場でいう「視力障害」は,屈折異常の矯正(つまり眼鏡かコンタクトレンズ装用)下で,遠見での中心視力が前提となる.
☆視 力 visual acuity / Sehschärfe
【
確認と追加説明 】
視力visus とは,ものの形や位置を見分ける能力である.眼科では形態覚の尺度のひとつとして2つの点(または線)を2つとして識別する間隔の限界を測定し“視力”としている.いわゆる“最小分離能(分離最小閾)”である.すなわち閾値としての数値が小さいほど良好である.従って自動的に錐体の機能を指すことになる.
☆屈 折 refraction
【
レンズ 入門 】
光が眼球内に入り,おもに角膜・水晶体が作用し網膜上に結像すること.通常,自然のままの遠見視の状態(静的屈折)を指す.近見視のため一時的に変動した状態(調節)が動的屈折である.遠見時に網膜上に結像する物点位置が遠点far point,近見時の最短位置が近点near pointである.遠点が無限遠にある状態が正視(émmetros;ギリシャ語 ἔμμετρος ),適当な近距離まで明視できるとき,屈折状態は正しい,という.これ以外の状態が,屈折異常refractive errorということになる.
■視力障害
視力異常ないし視覚異常は,疼痛と並んで眼科主訴の最も重要なものである.自覚症状は多様で原因も多岐にわたるため,表現には注意が必要である.当然,自覚症状としての視力障害の表現に「視力が落ちました」は,少ない(ところが,勉強や仕事のしすぎ ? で見にくくなると「視力」という単語がでるんだよね,不思議だ.眼精疲労のカテゴリーになる根拠,かもしれない).通常は「モノが見えにくい」ということだが,「よく見えない」「ぼやける」「かすむ」というような表現にもなる(この時,だいたいの患者さんが「見えない訳ではない」とも付け加える.心理状態の一端なんだろう).
自覚症状を医学用語に置き換えたものが症候名である.内容(当然,疾患)によって,「どのように・・・なのか」という点が重要である.視力障害以外の視覚障害にも注意する.これにより「患者の言葉」での記載が欠かせない,と分かる.
(次の記述の疾患は頻度順ではない)
■原因部位に因る影響
視力障害のメカニズムは,屈折異常,眼球光学系の混濁による“透光障害”,網膜における“感覚障害”,視神経から上位の“伝導障害”,中枢での“認知障害”あるいは“心因性異常”などの段階がある.
屈折調節異常 | 近視,遠視,乱視,老視 | ||
透光体 | 1. | 角膜 | 混濁(角膜片雲,角膜斑,角膜白斑),浮腫,血管新生 変形(円錐角膜 |
2. | 前房 | 混濁,出血,ときに角膜後面沈着物 | |
3. | 水晶体 | 混濁(白内障),ときに位置異常(脱臼 | |
4. | 硝子体 | 混濁,出血 | |
5. | 網膜中心窩 | 黄斑疾患 | |
網 膜 | 感覚系 | コントラスト感度低下(おもに側抑制系の低下による空間周波数特性への影響 薄明視状態,などとも表現される. | |
伝達系 | Y細胞(低周波部分を受け持つ・・緑内障 X細胞(高周波部分を受け持つ・・中心性網膜炎 | ||
視神経 | 伝達系 | フリッカ周波数(時間周波数特性)への影響 | |
視交叉 | 基本的には視野障害が主,経過により視神経萎縮へ進行 | ||
大 脳 | 認識・解読系 | 第一次視中枢では視野障害,高次中枢では視覚性失認など | |
非器質的異常 | 弱視,心因性(ヒステリー |
■視力低下 visual loss というと,以前は良かったような意味合いになる.
従って,視力低下という表現は狭義に使い,通常は視力障害 visual disturbance という.
☆視力低下 | :decreaced vision | |
a)生来あり: | 先天白内障,弱視(従って,視力低下は不適当であろう) | |
b)漸次進行: | 屈折異常,透光体(角膜・水晶体・硝子体)の混濁,ぶどう膜炎, 視神経系視路の障害(網膜・視神経・視交叉-含 脳腫瘍) | |
c)急激発症: | 隅角閉塞による急性眼圧上昇,網膜中心動脈閉塞,網膜剥離,視神経炎, 網膜中心静脈閉塞,黄斑出血,硝子体出血, 心因反応,中枢性 | |
d)一過性: | 頸動脈塞栓,椎骨脳底動脈不全,網膜性片頭痛 | |
☆霧 視 | :blurred vision | |
白内障,緑内障,ぶどう膜炎,角膜障害,硝子体混濁,時に眼脂による |
視力低下以外の視覚異常としての訴えでは,かなり頻度の高い代表的な疾患を想定できる場合がある.
【0】 霧視:くもって cloudy / foggy 見える.
視力障害の一部でよいのであるが,「くもる」症状でも視力検査では(1.2)というのが少なくない.
【1】 羞明:眩しいために見えにくい(気がする).
症状の重い結膜炎,角膜炎,虹彩毛様体炎など前眼の炎症で自覚されることが多い.そのほか白内障,錐体異常など.
【2】 飛蚊症:黒いもの(虫)が飛んでいるようにみえる.
多くは老化現象である後部硝子体剝離であることが多いが,網膜剝離の前駆症状の場合や糖尿病網膜症などによる硝子体出血などで自覚される.
【3】 光視症:稲妻のような光が見える.
閃輝性暗点と,網膜剝離の前駆症状として自覚される場合と区別する必要がある.
【4】 暗点:黒い部分が見えること(ちょっとアヤシイ説明だな・・・暗く感じて見えにくい,の方が近いかも).
黄斑部が限局性に障害された場合では漿液性中心性網膜脈絡膜症や加齢黄斑変性などで発生する.
固視中心から上方または下方では,網膜剝離,網膜静脈閉塞などで(実性暗点として).
緑内障で Mariotte暗点の拡大で自覚することもある(虚性暗点として).
【5】 視野狭窄:視野の一部が認識されない.
緑内障性視神経萎縮,半盲,網膜色素変性,網膜動脈閉塞
【6】 色視症:色がついて見える.
中心性漿液性網脈絡膜症など黄斑部疾患(通常は後天色覚障害ととらえる).
硝子体出血で赤く見える紅視,白内障手術後の青視,薬物中毒とか心因性・中枢性なども含む.
【7】 変視症:物がゆがんで見える.
中心性漿液性網脈絡膜症,加齢黄斑変性などの黄斑部疾患,網膜剝離.
【8】 心因性視能障害,心因反応あるいは転換性障害:身体表現性障害(新:身体症状症)
視機能低下の発現に心的要因が深く関与しており,その対応に心身医学的アプローチが必要であるもの.転換 conversion
若年発症のStargardt病,錐体ジストロフィ,X連鎖性網膜分離症,不全型先天停在夜盲などの器質的眼疾患,弱視や詐盲を否定すると本症を疑う.
■ 視力損失の考え方
視力 | 損失量(%) |
---|---|
1.0 | 0 |
0.8 | 5 |
0.7 | 10 |
0.5 | 15 |
0.4 | 25 |
0.3 | 30 |
0.2 | 50 |
0.1 | 80 |
0.05 | 90 |
■ 弱視 amblyopia
医学的弱視は,『
視覚の発達期(視覚感受性期)に於いて,視性刺激遮断あるいは異常な両眼相互作用(斜視や屈折異常)によって起こる片眼または両眼の視力不良で,
眼科的検査で器質的病変を認めず,適切な症例は予防や治療が可能なもの 』と定義されている(植村による).原因は,
1:片眼・両眼の形態覚刺激遮断(先天白内障,角膜混濁,眼瞼下垂,眼帯装用などによる抑制
2:片眼の斜視・微小角斜視による抑制
3:屈折異常(遠視・乱視,特に不同視)での defocus不鮮明像
があり,これらにより外側膝状体と後頭葉視中枢で(特に小細胞系)のシナプス形成が障害された状態である.
1 については視性刺激遮断弱視,2・3については機能弱視と呼び,治療の対称となる.器質弱視や中枢性視覚障害は除外する.
なお器質弱視とは,器質的病変が合併しており,これらが原因となり視力の発達遅延や抑制をおこしている状態をいう.ただし,器質病変があっても,弱視治療により視力向上がみられたとの症例報告は少なくない.
社会的弱視・教育的弱視(両眼性)は器質的病変の有無にかかわらず,ロービジョンとして対応する.
lazy eye = ギリシャ語の "αμβλύς"(amblýs;弱い) + "ὤψ"(ōps;目)
■ 視力の評価
数字で表わすのは分解能(視角)である.疾患の発症・進行のため視力が悪化する,治療によりあるいは自然経過で視力が回復するなど,変化したと評価するのは『0.2』以上の変化が認められる場合である.通常の小数視力での評価は『2段階以上の変動』などと言うが,例えば1.2⇔0.9と0.3⇔0.1とでは比率(倍率)が違う.前者は1.33倍(視角で 0.83′ 対 1.11′)の開きに対して後者は3倍(3.33′ 対10′)である.1.2の半分は0.6であるからして,0.2⇔0.1で同じ比率になるのは言うまでもない.
これにより,対数での記述が勧められている.この場合,倍または半分の変化により評価する.(常用)対数値では
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